福岡地方裁判所 昭和58年(ワ)1926号 判決 1985年7月30日
原告
古賀恭子
ほか三名
被告
三共広告株式会社
ほか一名
主文
一 被告らは各自原告古賀恭子に対し八〇四万五〇九六円及びうち六五四万五〇九六円に対する昭和五七年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告古賀奈緒美、同古賀英昭に対し各五二二万四六二五円及びこれに対する昭和五七年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告古賀貞子に対し二一万五六六〇円及びこれに対する昭和五七年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
二 原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自原告古賀恭子に対し一八四七万〇一四四円及びうち一五四七万〇一四四円に対する昭和五七年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告古賀奈緒美に対し一五四七万九四三四円及びこれに対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告古賀英昭に対し一五四七万九四三四円及びこれに対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告古賀貞子に対し一五一万五六六〇円及びこれに対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 右1について仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
昭和五七年一一月五日午前六時四五分ころ、福岡県春日市神明町三丁目一番地自衛隊春日駐屯地前の県道五号線路上で、被告河原畑運転の普通貨物自動車(福岡四五て九八六九、以下「甲車」という。)と古賀貞成運転の足踏自転車(以下「乙車」という。)とが衝突し、その衝撃により古賀貞成が脳挫傷、右大腿骨骨折、骨盤骨折等の傷害を負い、右傷害による心肺不全により、同月八日、医療法人徳州会福岡徳州会病院で死亡した。
2 責任原因
(一) 被告会社は、本件事故当時、甲車を所有し自己のために運行の用に供していた。
(二) 被告河原畑は、右道路を二日市方面に向つて時速五五キロメートルで直進中、前方から進行して来た乙車に正面衝突したものであつて、本件事故の発生について速度違反及び前方不注視の過失があつた。
3 損害
(一) 貞成の損害
(1) 入院雑費 四〇〇〇円
一日一〇〇〇円の割合による入院四日間分
(2) 治療費 一六〇万三二七五円
(3) 文書代 四〇〇〇円
(4) 逸失利益
(ア) 給与 三六四三万八五五六円
貞成は、大正一五年九月三〇日生れの男子であり、本件事故当時福岡県立筑紫高等学校に教諭として勤め、年間六七四万八二七六円の給与を得ていた。
教諭の停年は、通常六〇歳であるから、同人は、その後再就職し、六七歳まで、大学卒六〇歳男子の平均賃金である年間四七六万六九〇〇円相当の給与を得たはずである。
そこで、同人の生活費の割合を右収入の三割として、ホフマン式計算法によつて中間利息を控除すると、同人の得べかりし給与は、次のとおり三六四三万八五五六円と算定される。
六七四万八二七六円×〇・七×三・五六四三+四七六万六九〇〇円×〇・七×五・八七四三=三六四三万八五五六円
(イ) 退職手当 三六九万八五五一円
貞成の事故当時の給与は、月額三五万九〇〇八円であつたが、毎年五パーセントの昇給が見込まれるので、昭和六二年三月三一日の退職予定における月額は、四〇万八三七二円になつていたはずである。
したがつて、同人の得べかりし退職手当は、次のとおり二三七一万八二四五円と算定される。
四〇万八三七二円×五八・〇八(算出率)=二三七一万八二四五円
これに対し、現実に支給された退職手当は、次のとおり一九二七万九八〇六円である。
三五万九〇〇八円×五三・七〇三(算出率)=一九二七万九八〇六円
したがつて、同人が喪失した退職手当は、ホフマン式計算法によると、次のとおり三六九万八五五一円と算定される。
(二三七一万八二四五円-一九二七万九八〇六円)×〇・八三三三=三六九万八五五一円
(ウ) 年金 二三九五万五六一八円
貞成は、地方公務員共済組合法に基づき、公立学校共済組合から、右退職予定時の翌月から平均余命である七七歳までの一七年間、年間二八三万三七〇〇円の年金を受給することになつていた。
そこで、同人の生活費の割合を右年金の三割として、ホフマン式計算法によつて中間利息を控除すると、同人の得べかりし年金は、次のとおり二三九五万五六一八円と算定される
二八三万三七〇〇円×〇・七×一二・〇七六九=二三九五万五六一八円
(5) 慰謝料 八〇〇万円
(6) 相続
原告恭子は貞成の妻、原告奈緒美、同英昭は同人の子である。よつて、原告らの相続分は次のとおりである。
原告 恭子 三六八五万二〇〇〇円
原告 奈緒美 一八四二万六〇〇〇円
原告 英昭 一八四二万六〇〇〇円
(二) 原告らの損害
(1) 慰謝料
(ア) 原告恭子 三〇〇万円
(イ) 原告奈緒美、同英昭 各二〇〇万円
(ウ) 原告貞子 二〇〇万円
原告貞子は、亡貞成の母である。
(2) 葬儀費用(原告恭子)一八三万七七九〇円
(3) 弁護士費用(原告恭子)三〇〇万円
(三) 損害の填補
(1) 自賠責保険金 二一二〇万円
(ア) 原告恭子 一〇八二万二五二八円
(イ) 原告奈緒美、同英昭 各四九四万六五六六円
(ウ) 原告貞子 四八万四三四〇円
(2) 遺族年金(原告恭子) 一五三九万七一一八円
原告恭子は、貞成の死亡に伴い、昭和五七年一二月以降公立学校共済組合から共済遺族年金として年間一〇九万一七〇〇円を受給することになつた。そこで、ホフマン式計算法によつて、貞成の余命年数期間(二一年間)に同原告が受給すべき右年金の現価を計算すると、次のとおり一五三九万七一一八円となる。
一〇九万一七〇〇円×一四・一〇三八=一五三九万七一一八円
4 結論
よつて、被告会社に対し、自賠法三条に基づき、被告河原畑に対し、民法七〇九条に基づき、原告恭子は一八四七万〇一四四円及びうち弁護士費用を除く一五四七万〇一四四円に対する本件事故発生の日である昭和五七年一一月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告奈緒美、同英昭は各一五四七万九四三四円及びこれに対する前同様の遅延損害金の支払を、原告貞子は一五一万五六六〇円及びこれに対する前同様の遅延損害金の支払を、それぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(事故の発生)の事実は認める。
2 同2の(一)(運行供用者責任)の事実は認める。同(二)(不法行為者責任)の事実は否認する。
3 同3(損害)の事実のうち、(三)の(1)(自賠責保険金の受領)の点は認めるが、その余は不知。
三 抗弁(過失相殺)
本件道路は、幅員約一三メートル、片側二車線の幹線道路である。本件事故は、被告河原畑が右道路の中央線寄りの第二区分帯を二日市方面に向つて走行中、貞代が傘をさして乙車に乗り、同被告の進路前方を急に右から左に横断しようとしたために発生したものである。
四 抗弁に対する認否
事故の態様は否認する。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の証拠目録記載のとおりである。
理由
一 事故の発生
請求原因1記載の事実は、当事者間に争いがない。
二 責任原因
1 請求原因2の(一)記載の事実は、原告らと被告会社との間で争いがない。
2 同(二)記載の事実について判断する。
(一) 成立に争いのない甲第一号証の二、三、乙第一ないし第四号証及び被告河原畑本人尋問の結果によると、本件事故のあつた道路は、歩車道の区別のある片側二車線の道路(歩道部分の幅員約二メートル、車道部分の幅員約一〇・八メートル)であり、直線をなしていること、事故当時、雨が降つており、交通量は少なかつたこと、被告河原畑は、甲車を運転し、右道路の中央線寄りの車線を二日市方面に向つて時速約五五キロメートル(法定最高速度毎時四〇キロメートル)で進行中、乙車が道路の右側から自車の進路上に進出するのを発見した直後にこれに衝突したこと、貞成は、傘をさして乙車に乗り、右道路を横断中、中央線を越えた直後に甲車に衝突したことが認められ、右認定に反する甲第一号証の四、証人末次要一の証言及び原告恭子本人尋問の結果は、採用しない。
(二) 右事実によると、被告河原畑は、本件事故の発生について速度違反及び前方注視義務違反の過失があつたものと認められる。
三 損害
1 貞成の損害
(一) 入院雑費 四〇〇〇円
成立に争いのない甲第四号証によると、貞成は、事故当日から死亡するまで四日間、前記病院に入院したことが認められ、病院に入院した場合、入院一日につき一〇〇〇円を下回らない雑費を要することは、当裁判所に顕著である。
(二) 治療費 一六〇万三二七五円
右甲第四号証によると、貞成は、右病院で本件事故による傷害の治療を受け、治療費一六〇万三二七五円を出捐したことが認められる。
(三) 文書代 四〇〇〇円
右甲第四号証及び弁論の全趣旨によると、貞成は、右病院から診断書及び診療費明細書の交付を受け、文書代各二〇〇〇円を出捐したことが認められる。
(四) 逸失利益
(1) 給与 二六六五万四三五一円
(ア) 成立に争いのない甲第五号証の一ないし六及び弁論の全趣旨によると、貞成は、大正一五年九月三〇日生れの男子であり、大学卒業後教職につき、事故当時、福岡県立筑紫高等学校に勤務していたこと、同人の得べかりし給与は、昭和五七年一二月一日から昭和五八年三月三一日までが一七六万四一一一円、昭和五八年度(同年四月一日から昭和五九年三月三一日まで、以下同様)が六六五万八三六四円、昭和五九年度が六八八万六三二八円、昭和六〇年度が七一一万九三〇九円、昭和六一年度が七三五万六五四三円であり、同人は、本件事故に遭遇しなければ、昭和六二年三月三一日まで引続き教職にあつたものと認められる。
そして、同人の生活費の割合は、家族構成等の諸事情に鑑み、後記(1)の(イ)及び(3)記載の期間をも通じて、収入の四割と認めるのが相当である。
そこで、年別ホフマン式計算法により右得べかりし給与の現価を計算すると、次のとおり合計一六〇一万〇九九二円と算定されるので(計算の便宜上、各年度の給与は、貞成が死亡した一一月八日に全額が支給されるものとする。)、これをもつて同人の得べかりし右給与を喪失したことによる損害と認めるのが相当である。
昭和五七年度 一七六万四一一一円×〇・六=一〇五万八四六六円
昭和五八年度 六六五万八三六四円×〇・六×〇・九五二三=三八〇万四四五六円
昭和五九年度 六八八万六三二八円×〇・六×〇・九〇九〇=三七五万五八〇三円
昭和六〇年度 七一一万九三〇九円×〇・六×〇・八六九五=三七一万四一四三円
昭和六一年度 七三五万六五四三円×〇・六×〇・八三三三=三六七万八一二四円
(イ) 弁論の全趣旨によると、貞成は、事故当時、健康であつたことが認められるので、同人は、右退職後なお六年間稼働し、転職の不利益を考慮に入れても、大学卒男子の六〇歳から六四歳までの平均賃金である五七八万四九〇〇円(当裁判所に顕著な統計資料であるいわゆる賃金センサス昭和五八年度分による。)の七割に相当する年間四〇四万九四三〇円の収入を得ていたものと認められる。
そこで、生活費の割合を前記のとおり収入の四割として、年別ホフマン式計算法により右得べかりし収入の現価を計算すると、次のとおり一〇六四万三三五九円と算定されるので(計算の便宜上、右収入は、毎年一一月八日に全額が支給されるものとする。)、これをもつて同人の得べかりし右収入を喪失したことによる損害と認めるのが相当である。
四〇四万九四三〇円×〇・六×)七・九四四九-三・五六四三)=一〇六四万三三五九円
(2) 退職手当 六七万三六九六円
前掲甲第五号証の一、成立に争いのない甲第五号証の七によると、貞成は、昭和六二年三月三一日に退職した場合、退職手当二四三五万九二三六円の支給を受けたであろうことが認められる。
そこで、前同様の計算法により四年五か月間の中間利益を控除すると、得べかりし右退職手当の現価は、次のとおり一九九五万二六五〇円と算定される。
二四三五万九二三六円÷一・二二〇八=一九九五万三五〇二円
これに対し、弁論の全趣旨によると、貞成の死亡退職に伴い現実に支給された退職手当は、一九二七万九八〇六円であつたことが認められる。したがつて、同人の得べかりし退職手当の喪失による損害は、右一九九五万二六五〇円からこれを控除した六七万三六九六円と認めるのが相当である。
(3) 年金 一七一八万一七七二円
以上の事実によると、貞成は、地方公務員共済組合法に基づき、前記退職予定時の翌月である昭和六二年四月一日から年金の支給を受くべきところ、その年額は、成立に争いのない甲第六号証により、二八四万八九〇〇円と認められ、その期間は、当裁判所に顕著な昭和五八年簡易生命表による平均余命に照し、一六年間と認めるのが相当である。
そこで、生活費の割合を前記のとおり収入の四割として、前同様の計算法により得べかりし右年金の現価を計算すると、次のとおり一七一八万一七七二円と算定されるので(計算の便宜上、年金は、毎年一一月八日に全額が支給されるものとする。)、これをもつて同人の得べかりし右年金を喪失したことによる損害と認めるのが相当である。
二八四万八九〇〇円×〇・六×(一三・六一六〇-三・五六四三)=一七一八万一七七二円
(五) 慰謝料 四〇〇万円
貞成の死亡による慰謝料の額は、諸般の事情(本件事故における同人の後記過失を除く。)に鑑み、四〇〇万円をもつて相当と認める。
2 相続
前掲乙第四号証及び弁論の全趣旨によると、原告恭子は貞成の妻、原告奈緒美、同英昭は同人の子であることが認められる。
よつて、以上の損害賠償請求権の右原告らの承継分は、次のとおりである。
原告恭子 二五〇六万〇五四八円
原告奈緒美、同英昭各一二五三万〇二七三円
3 原告らの損害
(一) 慰謝料 合計 八〇〇万円
前掲乙第四号証及び弁論の全趣旨によると、原告貞子は、貞成の母であるところ、貞成が死亡したことによる原告らの精神的苦痛を慰謝すべき額は、諸般の事情(本件事故における同人の後記過失を除く。)に鑑み、原告恭子につき三〇〇万円、原告奈緒美、同英昭につき各二〇〇万円、原告貞子につき一〇〇万円をもつて相当と認める。
(二) 葬儀費用 七〇万円
原告恭子の葬儀費用相当の損害は、七〇万円をもつて相当と認める。
4 過失相殺
前記二の2の(一)で認定した事実によると、貞成は、本件事故の発生について道路左側の交通の安全を確認しないで道路を横断しようとした過失があつたものというべきである。
よつて、右過失を斟酌して以上の損害額を三割減額する。
(減額後の損害額)
原告恭子 二〇一三万二三八三円
原告奈緒美、同英昭 各一〇一七万一一九一円
原告貞子 七〇万円
5 損害の填補
(一) 自賠責保険金 二一二〇万円
原告らが本件事故に関し自賠責保険金二一二〇万円を受領したことは、当事者間に争いがない。そこで、原告らの主張する配分基準に従つて、原告らの以上の損害額から各填補額を差し引く(前記傷害による損害に先に充当するものとする。)
(差引後の損害額)
原告恭子 九三〇万九八五五円
原告奈緒美、同英昭 各五二二万四六二五円
原告貞子 二一万五六六〇円
(二) 遺族年金 二七六万四七五九円
弁論の全趣旨によると、原告恭子は、貞成の死亡に伴い、昭和五七年一二月から年間一〇九万一七〇〇円の遺族年金の受給権を取得し、昭和六〇年六月七日現在、二七六万四七五九円の支給を受けたことが認められる。
よつて、原告恭子の右損害から二七六万四七五九円を控除する(将来受給すべき遺族年金は、控除すべきでないと解するのが相当である。)
6 弁護士費用 一五〇万円
弁護士費用相当の損害は、諸般の事情に鑑み、一五〇万円と認めるのが相当である。
四 結論
以上のとおりであつて、被告三共広告は、自賠法三条により、被告河原畑は、民法七〇九条により、原告恭子に対し、八〇四万五〇九六円及びうち弁護士費用相当の損害一五〇万円を除く六五四万五〇九六円に対する貞成の死亡時である昭和五七年一一月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告奈緒美、同英昭に対し、各五二二万四六二五円及びこれに対する前同様の遅延損害金を支払う義務があり、原告貞子に対し二一万五六六〇円及びこれに対する前同様の遅延損害金支を払う義務がある。
よつて、原告らの本訴請求は、右義務のある限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小長光馨一)